駅に向かう途中の公園は、今日も小さな子どもたちとその親御さんたちで賑やかです。楽しそうに走り回る男の子、よちよち歩きの女の子。そして、それを笑顔で見守る大人たち。すがすがしい気持ちで 通り過ぎようとした時、向こうから、白いふわふわの毛糸の帽子を被り、それとおそろいのカーディガンに包まれた、2歳くらいの女の子が大きな声で泣きながら歩いてきました。

転んだのでしょうか。「いーたーかった、いーたーかった」 としゃくりあげ、うおーんうおーんと泣きながら歩いています。女の子の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。でも拭おうともせず、ゆっくりゆっくり歩いています。

 

「立ち止まりたいけど歩かなきゃ置いていかれる」

 

私にはそれが、痛くて泣いているのではなく、ママに振り向いてほしくて、抱っこしてほしくて泣いているように見えました。

その手前のだいぶ離れたところを、小さな赤ちゃんを抱いた女性が無表情で歩いています。泣いている女の子の母親のようですが、まったくその子を振り向こうとしません。抱いている赤ちゃんは生後2~3か月でしょうか。お母さん自身、産後の体調が安定していない時期です。授乳の間隔、夜泣きの頻度(もしかすると赤ちゃんだけでなく、泣いている子のほうも夜泣きや赤ちゃん返りがあるかもしれません)によっては、身体的・精神的に相当な疲れが溜まっていることでしょう。甘えられても、無視したくなる気持ちもわかります。もちろん、普段たくさん甘えさせてあげて、たくさん可愛がっているという前提があってのことです。子どもが憎いわけじゃない。でも、母親も一人の人間です。いつもいつも、笑顔で優しく接するなんてできません。

その女性が、ちらりとこちらを見たような気がしました。

心の中では「大丈夫よ。お母さん。がんばって…!」と、その女性を励ましたかったのですが、一瞬どんな顔をすべきか迷ってしまい、結局は困ったような変な笑顔を作ってしまいました。満面の笑顔で見るのも、かといって眉をひそめて同情するような表情を作るのも変だな、と。どんな表情をしても、女性が「責められている」と感じるのではないかと思ったのです。

 

もし私が高校生だったら、きっとこのお母さんを非難したことでしょう。

「あんなに可愛い子が泣いているのに、あのお母さん、無視するなんてひどい!ネグレクト?虐待?」そんなふうに思ったかもしれません。テレビや雑誌で見聞きする「ネグレクト」「虐待」といった情報に、何か知っているような気になって、非難したり、攻撃してしまったりする。自分が「相手の日常の一部分だけしか見ていない」ということや、「何がこうさせているのか」ということに気がつきもせず…。私自身、母親という立場になって、初めて気が付くこと、分かることがたくさんありました。それまで誰も教えてはくれなかったこと。「ママの気持ち」もその一つです。

 

少子化で「母親」を経験する人が減りつつある現代社会。
そんなアウェイな世界で子育てをしていくということが何を意味するのか…。

インターネットやSNSなどの発達によって、家の中にいても友人と繋がることができたり、自分を表現したりすることができるようにはなりました。一昔前のママたちが感じていた孤独な子育てから、少しは解放されたような気もします。でも逆に、多くの見知らぬ人たちから簡単に攻撃されてしまったり、あふれる多くの情報に翻弄されることが増えています。また、長時間労働の裏で夫の育児参加が進まない上に、核家族という形態上、祖父母を頼ることもできない…。そんな母親も増えています。その点で言えば、今も昔も「孤育て」に陥ってしまう母親は少なくないのかもしれません。

 

しかし子育ては、何にも代えがたい楽しみや幸せ、癒しや安心感を与えてくれるものでもあります。
何より、「親になる」という経験がたくさんの世界を見せてくれる。子育ては、そんなかけがえのない経験です。

子育ての大変さだけがクローズアップされることで「結婚したくない」「子どもを産みたくない」と思う若者も増えていると聞きますが、私を含めた子育て経験者は、現役子育て世代の立場や大変さを代弁したり手助けをするだけでなく、「子育ての素晴らしさ」を未来の子育て世代にもっと伝えていく必要もあると感じています。

 

女性とすれちがった後、そんなことを考えながらしばらく歩きました。
ふと気になって振り返ると、女性は立ちどまり、女の子が来るのを待っていました。
女性はしっかりと女の子の方を向いています。

私はやっとホッとして、再び駅へ向かいました。

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おせっかい隊:雁瀬 暁子(がんせ あきこ)

母親が24時間365日、休みなく子育てに拘束されることで生じる孤独な子育てに危機感を感じ、07年「ちょっとだけママを休もう」をテーマに、母親の心や体を癒す施設を併設した一時預かり保育園を創業。年間延べ2千人の育児中の母親と直に接し、育児や夫婦関係、主婦の再就職や仕事との両立の悩みなどの相談に応じる中で、ワークライフバランスの必要性を痛感する。

変わりゆく時代の中での「家族」や「夫婦」のあり方、「育児や介護などで時間の制約がある人」の働き方、女性のライフプランニングの重要性などについて、豊富なデータと分析を示しながら男女共同参画やワーク・ライフバランス、少子高齢化問題についてなどの講演活動を行っている。

◼︎就活・婚活・子育てに効くワークライフバランス講師・雁瀬暁子ホームページ
◼︎マミースマイル保育園