「あの、3時間おきに授乳って夜中も…ですか?」
出産と癒着胎盤の処置を終えて数時間。目覚めたところに現れた産院のスタッフの方に渡された"入院中のスケジュール"には、授乳を始めとする育児の指導要領がびっしりと書かれていた。
産後は頭が回らないという話は耳にしていたが、本当にその通りで。新生児室に行って授乳をする時間、搾乳や調乳、沐浴の手順など、受け取ったスケジュールに書かれていることがすぐに理解できない状況だった。
ただ一つ分かったことは「赤ちゃんの命に関わる内容が書かれている」ということ。
寝不足と貧血で自分の身体がフラついていようと、自分よりも赤ちゃんが優先される。
入院期間中に赤ちゃんのお世話を一通り身体に叩き込まなければ…。
その一心で、産後の生活に突入していった。
退院後は、2カ月近くもの間、実家の母が住み込みで家事全般をサポートしてくれた。日用品や食品の買出しから、栄養バランスのとれた食事の準備、小まめな部屋の掃除など、本当に大助かりだった。その間、数十年ぶりに一人暮らしをすることになった実家の父をはじめ、義母との生活をプラスに捉えて受け入れてくれた夫には感謝しかない。
しかし、当時の私には周りに感謝する余裕などなかった。
すやすやと静かに眠るわが子を愛おしく思う一方で、数時間おきに授乳やオムツ交換をしたり、何をしても泣き止まない中で抱っこし続けたり、ウンチやミルクの吐き戻しで汚れた産着を洗濯したり、思うように体を休めることができない毎日に心底うんざりしていた。
朝から晩まで一緒に過ごす実母のふとした一言が"良き母・良き妻プレッシャー"に感じられ、「居てくれて助かるけど、居て欲しくない!出て行って!」と泣き叫んだこともある。
そうして実際に母が一時的に実家へ戻ると、わが子をリビングの床に転がしたまま「何もかも捨てて逃げ出してしまおうか」とベランダに足を向けてみたり、虐待を報じるワイドショーを見ながら「自分も加害者になってしまうかもしれない」と恐ろしく思ったりしたものだ。正直、あの頃の自分が病院を受診していたら「産後うつ」と診断されたのではないかと思う。
わが子を見つめているだけで笑顔になれる日もたくさんあるのに…。
それなのに、どうしてこんなに追い込まれてしまうのか。
振り返って思うのは、当時の私は「夫とのパートナーシップが希薄だった」ということ。
穏和でユーモアがあり、子どもにも好かれ、一通り家事をこなすスキルもあるなど、結婚当初から"良い夫"ではあったものの、その良さを発揮する機会がとにかく少ない。仕事があまりに忙しく、帰宅は深夜。家にほとんどいないため、産後の働き方や暮らし方についてゆっくり対話を重ねることもできず「新たな協力関係」を築きようがなかった。
「この先も家の仕事(家事や育児)は私が中心となって担うの?」
「なぜ私だけが働き方を変えなくてはならないの?」
「一家団らんが夢…という話は嘘だったの?」
日増しに募る、夫への不信感。
たまに早く帰ってきても、仕事が頭から離れない様子の夫。タスクをこなすように沐浴やオムツ替えなど「言われたことだけ」を行い、一段落したところで再びパソコン上の資料に意識を向ける。
途中きまぐれに「◯◯(娘の名前)は今日どうだった?」と子どもについて尋ねられることはあっても、私について聞かれることはほとんど無い。自分の妻が日中どのように過ごし、何を感じていたのか…特に気にならない様子の夫を前に、「これが世に言う産後クライシスか」と妙に納得している自分を感じていた。
こうなると、必然的に実家の母や産院・小児科の先生、ママ友などが主な話し相手になっていく。
しかし実際には、育児に限らず家事・仕事・お金・住まい…など、人生を共に生きると決めた夫との間でしか解消することができない問題が多々あるものだ。不安や悩みを相談したり、助けを求めたりできる人が周りにいるだけでも恵まれていたのかもしれないが、一番身近な存在であるはずの夫との間でパートナーシップを実感できない日々は、それなりに辛く、苦しいものがあった。
子どもはみんなで育てるもの。
その"みんな"の中心に、他の誰でもなく「夫」にいてほしかったのだ。
あれから4年。
一時は「離婚」の危機に陥ったわたしたちだったが、我慢や妥協ではない夫婦の在り方を模索する中で、何とか「産後うつ」「産後クライシス」を乗り越えることができた。最大の要因は、「夫を最大のパートナーと信じ、諦めずに対話を続けてきたこと」これに尽きるだろう。
どんな自分・夫婦・家族でいたいか?
それぞれが思い描くビジョンを共有することにはじまり、産後の働き方や暮らし方における理想と現実を話し合っていく。臭いものほど蓋をせず、お互いの不安や課題に関心を持ち、理解と共感を積み重ねていく。「どうしてそう思うの?」「今の話はこういう意味?」と、中途半端に分かったふりをせず、言葉を尽くしてきた。
時には激しくぶつかることもあったが、それさえも良い思い出と言えるのは、こうした地道なコミュニケーションの中で夫婦のパートナーシップを築いてきた実感があるからだろう。
まだまだ始まったばかりの子育てライフ。
ここ最近は、定期的な「夫婦会議」の他に、子どもを交えての「家族会議」もスタートしたところだ。子どもは家庭の中だけで育つわけではないが、親の私たちが思う以上に夫婦関係をしっかり見て、記憶しているなと感じる。
この先も、わが子により良い家庭環境を創り出していけるわたしたちであるために。
試行錯誤の道のりを楽しみながら、夫婦・家族のパートナーシップを高めていきたい。
「夫婦会議」を始めてみませんか?
「夫婦会議」とは、人生を共に創ると決めたパートナーと、より良い未来に向けて「対話」を重ね、行動を決める場のことです。
自分一人の意見を通すため・相手を変えるために行うものではありません。「わたしたちとして、どうするか?」を考える場。特に育児期には、わが子にとって、夫婦・家族にとって「より良い家庭環境」を創り出していくことを目的に行います。家庭は社会の最小単位であり、子どもたちが最初に触れる社会そのもの。大切なことを前向きな気持ちで対話していける夫婦であるために、新習慣として取り入れてみませんか?
※「夫婦会議」はLogista株式会社の登録商標です。(登録番号6064766号)
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過去の記事
- 「夫を育てる」よりも「夫と育てる」妻でありたい。 2018.06.01
- 脱・産後うつ&産後クライシス!夫は産後の妻の最大のパートナー! 2018.10.08
おせっかい隊:長廣 百合子(ながひろ ゆりこ)
福岡市博多区出身。夫と娘との3人暮らし。Logista株式会社共同代表 CEO。
次世代リーダー発掘・育成を使命に、独身時代は採用支援と人財育成の分野でワーカホリックに生きる。2013年に結婚。第一子誕生を機に「仕事と家庭の両立を巡る葛藤」 に直面し、産後離婚の危機を乗り越えた末、2015年7月より夫の長廣遥と共にLogista株式会社を設立。未来を担う子どもたちのために産後の危機を乗り越え、より良い家庭環境を創り出していける夫婦で溢れる社会を目指し、子どもたちが最初に触れる「社会の最小単位=家庭」に重点をおいた「夫婦のパートナーシップ構築を支援する夫婦会議推進事業」を展開。
夫婦会議ツール「夫婦で産後をデザインする 世帯経営ノート」の開発、「夫婦会議の始め方講座」「夫婦会議の体験講座」の開催、Webメディア「産後夫婦ナビ」の運営などを行う。
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https://www.logista.jp/about-us/