夫婦・家族としての道を選択したとき、何が見えてくるのだろう。結婚、妊娠、出産、育児。「わたし」だけでなく「わたしたち」だから描ける、今そして未来とは?

 第6回目は、福岡県福岡市にお住まいの村田家を取材。村田佑樹税務会計事務所の代表を務める夫の佑樹(ゆうき)さんと、薬剤師として時短勤務をしている妻の咲子(さきこ)さんのおふたりに、「結婚を決めた理由」、三姉妹である5歳の結芽(ゆめ)ちゃん、3歳の実緒(みお)ちゃん、0歳の紗菜(さな)ちゃんが生まれてからの「働き方と暮らし方」、「夫婦のパートナーシップ」について話を伺った。

ありのままで居られる、そんなふたり

ふたりの出逢いはなんとドトール!

税理士事務所で働きながら専門学校に通っていた佑樹さんと、社内の学術発表の為の勉強をしていた咲子さんは、お互いに同じカフェでよく勉強をしていた。そうした中、咲子さんの「いつも何の勉強をしてるんですか?」の一言がキッカケでふたりは急接近。

音楽の趣味や笑いのツボ、空気感が"一緒"のふたりは意気投合。付き合って1年後に、佑樹さんのプロポーズで結婚が決まった。

「当初は『結婚=窮屈』というイメージを持っていたんです。でも、この人と一緒に過ごしていて違和感がないというか。結婚しても変わらないだろうなっていうのが決め手になりましたね」と佑樹さん。

一方の咲子さんは、「家族を路頭に迷わせるような事はしないだろうなと思ったんです。当時彼は税理士になるために勉強に専念する日々で無職だったけど、雑草魂みたいな精神的な強さがあって。それが決意の後押しになりました」 と語った。

お互いの「この人と一緒なら生きていける」という確信が、ふたりに「わたしたち」として生きるきっかけを与えたのだろう。プロポーズから1年後の2011年11月11日、ふたりは夫婦として、新しい人生を歩みはじめたのだった。

そんなふたりの思い出の新婚旅行はハワイ。

日本語混じりでグイグイいく咲子さんの英語力のおかげもあり、ふたりは笑いの絶えない時間を過ごすことができた。帰国後、程なくして妊娠が分かったのは必然だろう。「結芽はハネムーンベイビーなんですよ」と語るふたりは、何処か楽しげだ。

しかし当時の咲子さんは、妊娠初期には"ニオイづわり"、中期には"食べづわり"で、苦しい日々を過ごしていた。新婚生活を満喫する間も無く変化する自分の身体…。戸惑いながらも、母親としての自覚が芽生えていく。

一方の佑樹さんは「子どもが生まれる」という実感をなかなか持てずにいた。 
リビングに小さな洋服がおいてあるのがちょっと怖い。
本当に生まれて来るのか…?

そんな中、妊娠・出産の専門書籍を通して咲子さんとお腹の子の様子をイメージすることから始めた佑樹さん。少しずつ、新しい家族を迎える準備をふたりで整えていった。

産後の生活は「マイナス」からのスタート

そして始まった産後の生活。

「子どもが生まれたら、ポカポカで幸せで…じゃなかったんですよね」と、咲子さん。

母乳がうまく出ず、夜泣き対応で眠れない。
我が子を可愛いとも思えない。

あたたかなイメージからかけ離れた産後のリアルに直面する中、咲子さんは「母親として失格ではないだろうか」と悩んだり、里帰り先でも家族の何気ない行動に落ち込んだり、一つひとつをネガティヴに捉えがちになっていった。


その横で佑樹さんもまた、密かにショックを受けていた。

出産前までは想像もつかなかった咲子さんのイライラした様子。ただひたすら時間に追われる毎日。

「産後の生活って、マイナスからのスタートなんだ」

そこには、想像をはるかに超えた現実があった。

そんな佑樹さんが、「家に帰りたくない」とつぶやいたのは2人目が生まれて数ヶ月が経った頃だった。

次女の実緒ちゃんの妊娠がわかった時点で、「私、またあんな風に鬱っぽくなると思うから…」と咲子さんから産後のフォローをお願いされた佑樹さん。家族の将来のためにも何としても合格したい!と税理士試験を目前に控え猛勉強中だったが、妻一人に負担をかけるわけにはいかない。いざ二児の父親となり、咲子さんを支えようと必死だった。

しかし、フォローも虚しく咲子さんのイライラは募るばかり。

家事をやったら「やり方」を、やらなければ「やらないこと」を指摘され、冷たくされてしまう。無事に税理士試験に合格し、仕事に邁進したい時なのに。自分では精一杯やっているつもりなのに。これ以上どうしたらいいんだろう…。

佑樹さんも、限界を感じていた。

宿命…だから仕方ない?

「2人目の子育てなのに、まだ覚えられないの?親歴は一緒なのにどうしてできないの?と憤ることが多くて。気がついたら、夫をサンドバックにしてしまっていたんですよね。でも、家に帰るのがイヤなんてダメやん!と。なんとかしなきゃいけないと思いました」

佑樹さんの思いがけない言葉をキッカケに、話し合っていこうと思うようになった咲子さん。
夫だけでなく、自分にも至らないところはある…と、自分自身も大変な中で夫との関わり方を見直す努力をした。

そうして再び前向きな夫婦関係が築かれていく中で、3人目を妊娠。
三女の紗菜ちゃんが、誕生した。


今度こそ順調に!と思いたかった。

しかし、事はそう簡単には進まない。
実はこの3度目の産後が、ふたりの間にかつてない溝を生む事になるのだ。

「もう育児には慣れているから大丈夫だろう…って、僕が思い込んでいたんですよね」と佑樹さん。
一体、何があったのか。

これまでずっと、里帰り出産を選択してきた村田夫妻。
 

しかし、今回ばかりは実家も紗菜ちゃんを含めた3人の子どもを受け入れる余力がなく、咲子さんと佑樹さんは、ふたりだけの産後に挑むことになった。

手始めに、咲子さんの退院後は佑樹さんが仕事を調節。長女と次女の保育園への送迎を引き受けた。滑り出しは順調に思えたが、問題はすぐに起きる。なんと産後一週間を境に送り迎えから離脱。「オレ、もう行けんけん」の言葉と共に、早々に手を引いてしまったのだ。

「一週間はしてくれた。でも、たった一週間!?」

思いは言葉にならず、その後は生後間もない紗菜ちゃんを抱っこしながら、二人の手を引き、歩いて保育園に送迎する日々が続いた。「家のそばにある保育園だったんですけど、それでもキツかったですね。会う人皆に、『まだ来ちゃダメでしょ!』と言われました。でも、誰も送る人がいなかったから…」

そんな中、お姉ちゃんふたりの赤ちゃん返りがはじまってしまう。
寂しさからか、真夜中に「おかあさん」と泣きつくようになったのだ。

紗菜ちゃんのミルクだけでなく、二人の相手をするためにも起きなければならない。産後しばらくは「てのひらのゆりかご」という民間の産前産後家事サポートを活用し、日中に食事を作ってもらうなど精神的にも肉体的にも助けてもらったが、再び子どもと自分だけの時間になると休まらず。

産後、体調が万全ではない中での睡眠不足が続く中、たまらず佑樹さんに助けを求めた咲子さんだったが、「そりゃあ母親の宿命やね。俺じゃダメやもん」と一言。

「宿命…だから仕方ないの?」

突き放されたという思いだけが残った。

「一人で頑張る」が正解なのか

産前は、もともと患っていた咲子さんの緑内障が悪化しないように「夜泣きは今回俺も交代する」と言ってくれていたのに。寄り添ってくれると思ったのに。アイマスクと耳栓を装備して眠る夫の姿に「嘘つき」感が増していく。

「家が殺伐としているのは、何より子どもたちによくない。そう思って、夫の仕事が忙しいことも、産後の辛さも、我慢していれば過ぎると自分に言い聞かせていました。あとは自分がそれに耐えられるかどうか。一人でなんとかしなきゃ…という気持ちでした」

しかし、咲子さんの職場復帰が近づく中、事態は深刻さを増していく。

「家事は分担で」という話し合いも行われていたが、税理士として働く佑樹さんは深夜帰宅になることもしばしば。炊事・洗濯・子どもの身支度など家の仕事の大半を咲子さんが中心となって担い続ける中、一向に睡眠不足も解消されず、肉体的にも精神的にも追い詰められていったのだ。

そんな中、再び「夜泣き対応を変わってほしい」と訴えた咲子さんだったが、「え!?おれ、明日仕事やけん」とあっけなく返され、以降、何も言えなくなってしまう。

「将来に対する不安とか、モヤモヤした気持ちが溜まるばかりで。でもそれをうまく言葉にできない自分がいて…」

 

本当は、すでに一人で頑張れる範囲を超えていたのだろう。ちゃんと気持ちを伝える場を作らないとダメだなと思い直す中、咲子さんは一念発起。佑樹さんを誘って「夫婦会議体験プログラム 両親学級世帯経営セミナー」(現在は「パパ&ママのための夫婦会議の体験講座」に名称変更)に参加し、家事や子育て、働き方のことなど、一つひとつ思いを共有しながら話し合っていった。

「対話と会話の違いに気が付けたのも大きかったですね」と振り返る村田夫妻。セミナー後も「世帯経営ノート」を使って夫婦会議を実践。産後の働き方と暮らし方について、少しずつ話し合うようになっていった。

中でも、セミナーを主催するLogista株式会社がNHKによるテレビ取材を受けた際、世帯経営ノートのユーザーとして村田家の密着インタビューが行われることになったのが転換点だろう。

「離婚…じゃないんだけど、『夫婦としている意味』がわかんないというか…」
言いにくさで静まり返ったリビングの中に、ポツポツと響く咲子さんの本音。


「まさかそこまで考えさせていたのか!!」

他の誰でもない自分の妻から飛び出した"離婚"の二文字。思っていた以上に夫婦関係が深刻な事態に陥っていたこと、自分が産後の妻の状態を見誤っていたこと…佑樹さんはこの時点でようやく事の重大さに気づいた。「心底何かを変えなきゃと思いました」の一言に力を込める佑樹さん。

「慣れているから大丈夫」ではなかったのだ。

一緒に乗り越えられる夫婦を目指して

以来、「対話を通じて、協力し合える関係」を本気で目指すようになった村田夫妻。特に佑樹さんは、対話ができるようになれば、全てが解決すると直感したという。

「今までも話し合いはしていたと思います。でも実際は、話をちゃんと聞いてなかったんですよね。正確には『聞くだけ』になっていて、相手の状況や思いを汲んで行動するところまでできていなかった。原因は完全に僕です」

日常的な会話も大切。でも、自分たちに足りなかったのは、価値観の違いを尊重し、互いに納得のいく結論を導き出していく「対話」だったのではないか。そんな気づきと共に進めていったふたりの夫婦会議。

咲子さんを職場へ送る車内で10分、たまには仕事帰りに夫婦2人でお昼ご飯を食べながら30分…隙間時間を見つけては、世帯経営ノートを開いて、家事・子育て・仕事のことなどを話し合った。

そうこうする内に、佑樹さんの仕事のスタイルが「朝型」に!
これまで10時頃だった帰宅時間を7時半に繰り上げるなど、目に見える形で生活が変化しはじめたのだ。

「以前は残業前提で働いていました。今思うと、効率が悪かったですね」

夫婦会議を繰り返す中で、働き方を工夫し、家庭にいる時間を増やすようになった佑樹さん。「朝に済ませたいことリスト」や「寝る前に終わらせたいことリスト」を共有し、家事も育児もふたりで協力して行うようになっていった。

咲子さんもまた、夫婦会議を繰り返す中で「察して欲しい。見たらわかるでしょ!」という態度を改めた。さらには、定期的に感情や考えを共有することで気持ちが楽になり、前向きなアイディアを出せるようにもなった。

たとえば、佑樹さんの子どもたちへの接し方が気になった際、咲子さんはいきなり不満を態度に出すのではなく「末の子だけでなく、上の子たちの日々の小さなことも知っていてほしい」という思いで、トイレに保育園のプリントを貼ったり、連絡ノートを置いたりと工夫した。

実は、家にいながら仕事のメールが気になり、子どもたちが邪魔する存在に思えていた佑樹さん。理不尽に厳しく接してしまうこともあった中、咲子さんの心遣いとその後の夫婦の対話の中で、子どもたちとの関わりを見つめ直すことができたのだった。

「当時は自分も不安定なところがあって。思うように仕事ができずイライラしがちだったんですよね。でも、夫婦会議を重ねる中で、『家があっての仕事』という価値観に変化した。いや、変わったというよりも、もともと一番大切に思っていた家庭を大切にできるようになったと言った方が良いのかもしれませんね」と佑樹さん。

気がつけば、夫婦ふたりの共通の話題も増え、父と娘のコミュニケーションも明るく活発なものへと変化していった。

家族あっての、わたしたち

そんなふたりにとって「家族」とはどういう存在なのだろう。

「全て。家族あっての私」と、咲子さん。
「同じですね。家族を蔑ろにして何かをすべきではない」と、佑樹さん。

すっかり足並みが揃っている!!と驚く取材陣に、咲子さんと佑樹さんは、「子どもの幸せが第一」という価値観を共有しているという話も聞かせてくれた。

「子どもたちを『一人の人』として尊重することが教育方針で。日々に追われると、どうしてもイライラしてしまったり、私たち親の思い通りに動かそうとしてしまいますが、子どもたちが自分で感じ、考え、決める事ができる環境作りを意識して接するようにしたいなと思っています」

子どもの教育方針についてしっかり向き合える関係を築いている村田夫妻。「今もまだぐちゃぐちゃで模索中!」と笑いあう咲子さんと佑樹さんだが、その都度ふたりで課題に取り組んでいける心強さはとてつもなく大きい。

「娘たちは自分そのものです。自分の言動が反映されている気がするし、『自分がしっかりしないと、この子たちの未来はない』そう思わせてくれます。信頼してもらえる父親でありたいですね」

「母親として、楽しんでいる姿を見せていきたい。完璧なことは全然できないけど、大人って楽しそうだな!と思ってほしいです。あとは…結芽にはお姉ちゃんとして頑張りすぎず自信を持っていいよと伝えていきたい。実緒は天真爛漫を強みに。紗菜にはいつも癒しをありがとうという気持ちです」

近々、咲子さんの職場が変わることをキッカケに大きく生活リズムが変わる予定だと話す村田夫妻。

再び、見たこともないような壁を感じる場面があるかもしれない。しかし、本当に大切なものに気がつき、「これからは上手くいくしかない」と頷きあえるようになったふたりだ。「家族あってのわたしたち」という共通価値を大切に、これからも笑顔の絶えない夫婦・家族関係を育んでいくことだろう。結芽ちゃん、実緒ちゃん、紗菜ちゃんの明るい未来を容易に想像させてくれる、そんなご夫婦の取材だった。

おまけ

取材の終わりに、「出会った当初と今で、お互いの印象は何か変わりましたか?」と尋ねてみました。

《佑樹さん》「この人なら結婚しても大丈夫!と思っていたけど、実際に結婚したら良い意味で予想を超えてくれる人でした。子どもたちも自分も優先してくれるところや、行動家なところとか。好きっていう気持ちも…残ってるけど(笑)今それが『尊敬』に変わってきましたね」

《咲子さん》「好き!キュンキュン!っていうのはもう無いです(笑)やっぱり私も『尊敬』が大きい。安心感を与えてくれるところや頑張り屋さんなところとか。心が折れそうな状況も、笑い飛ばしてクリアして行くところなんて、本当にすごい!と思っています」

恋人から、夫婦。
そして、お互いに尊敬の念を持った「最高のパートナー」へ。
取材メンバーの中から「いいなぁ〜!」という声が漏れ出た場面でした(笑)

 

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