夫婦・家族としての道を選択したとき、何が見えてくるのだろう。結婚、妊娠、出産、育児。「私」だけでなく「私たち」だから描ける、「今」そして「未来」とは?

第7回目は、福岡県福岡市にお住まいの大谷家を取材。学生時代の友人と起業した「合同会社こっから」の代表社員を務める夫の直紀(なおき)さんと、リモートワークで「株式会社Waris」の共同代表を務める妻の京子(きょうこ)さんのおふたりに、「結婚を決めた理由」、1歳を迎えた長男の有琉(ある)くんが生まれてからの「働き方と暮らし方」、「夫婦のパートナーシップ」について伺った。

受け止め合えたら、面白い。

「いつプロポーズすんの?みたいなことは言ったよね」と妻の京子さん。
「『年内に結婚決めなかったら出ていくから私』って、ほんとに言われた!」と夫の直紀さん。

 漫才のようなテンポで言葉を交わす大谷夫妻の出会いは、新卒で入社した株式会社リクルートキャリア。最初の3年程は、福岡勤務の直紀さんと東京勤務の京子さんの間に同期以上の繋がりはなかったが、直紀さんが人事として東京に赴任し、営業職として活躍していた京子さんに学生の採用フォローをお願いする内に、よく話す関係になった。

そこからどうやって、結婚に至ったのか?

「友人4人で食事をするはずが、2人来れなくなって。その時はじめて、京子とふたりで食事したのがきっかけ」

「そう。で、ちょうどその頃、私が付き合ってた人と婚約破棄して。打ちひしがれて、ぶわーっと赤裸々に自分の話しをしてたら、直紀が私を好きになったらしく、後日、『付き合ってください』って直紀から(笑)」

 
それまでは、京子さんに対して「ただの気の強い女」というイメージを持っていた直紀さん。傷つく一面があることを知り、ギャップ萌えしたのか尋ねると、そこはやんわりスルー。「もともとカッコイイ感じの人。多分そこが一番良いなと思ったところ」と照れ笑いで応じてくれた。

 

「直紀はめっちゃいい人!という印象だった。いざ付き合ってすぐに結婚を意識するようになったし、この人となら自分らしくいられる、自分の事を否定しなくて済む、そんな風に思ったんじゃないかな」

 

しかし、交際から1年が経ち同棲がスタートしても、直紀さんからのプロポーズはない。その内に痺れを切らした京子さんから冒頭の一言が飛び出したわけだが・・・聞けば直紀さん、「絶対結婚しよう」と当初から決意だけは固めていたらしい。

「あの頃お互いに死ぬほど働いていて、京子との時間も満足に取れてなかった。そんな中、男友達10人で茨城まで旅行したりして。好き勝手してる俺に怒ってたはずなのに、翌日の仕事に間に合うように『起きてる?』ってメールを送ってきてくれた。なんだかんだ許容してくれたのが嬉しかったし、安心できた。この人となら一緒になっても面白そうだなって」と直紀さん。

そこから半年後・・・直紀さんは、後に「合同会社こっから」を一緒に立ち上げることになる友人らに30万円を託し、映画館を貸切ってプロポーズに踏み切った。

「俺の金、どこにどう使ってるんやろ?と思って当日プロポーズ会場で流れた映像を観ていたら、『直紀ありがと~!』って、みんなでパスポート持って飛行機乗るところから始まってた」

「30万円はみんなの旅行代!わざわざ韓国に行って、私と直紀の出会いから今に至るまでの再現VTRを作ってくれていて。漏れなくみんなも楽しんでた(笑)なんだかんだ素敵な友達ばかり」

京子さんへのサプライズのはずが、直紀さんまで驚かされたプロポーズ大作戦。
約1年後の2014年11月15日に結婚式を挙げ、晴れてふたりは”夫婦”になった。

フライパンをバーン!ドアをバーン!

何でも笑いに変えて乗り越えていけそうなふたり。 

しかし、結婚はそれまで別々の人生を歩んできた者同士が一緒になるということ。価値観の違いから衝突する夫婦は少なくない。大谷夫妻も例外ではなく、結婚生活が始まるやいなや、特に“家事”を巡って小競り合いを繰り広げるようになった。

「あまりにもお互い溜まり過ぎて。一回、派手に喧嘩したよね」

同棲していた頃から直紀さんの家事に対する主体性の無さが気になっていた京子さん。

ある時、京子さんが台所作業をしていたところ、直紀さんの放った何気ない一言で大爆発。

「進んで家事をしないのは、家族の事を大事にしてくれていないのと同じ!私はあなたの使用人でも何でもない!」と怒りに任せてフライパンを床に叩きつけたのだった。

 

いつもならここで直紀さんが先に「ごめんな」と折れて終わるはず…。
ところがこの時ばかりは直紀さんも黙っていなかった。

「なんでそんな風に全てを繋げて言うわけ?やっている家事についても『やってない』『そうじゃない』と言われる。我慢しているのは俺の方!!もう一生家に戻るか!!!」と逆ギレ。勢い良くドアを開け放ち、家を飛び出して行ったのだ。

 

「3時間のプチ家出。サウナに行ってたらしい」

ムカつく気持ちが湧いた反面、初めての家出に「直紀、頑張ったな」とも思っていたという京子さん。一方の直紀さんも、「出ていく」という行為に後ろめたさを感じながらも、思い切った行動に出て気持ちが楽になったと話してくれた。

 とはいえ、喧嘩のたびにフライパンをバーン!ドアをバーン!と叩きつけていたのでは家が壊れてしまう。まして、この先子どもが出来たら…?

このままいったら「離婚」してたかも

実は京子さん、「家事」に対してだけでなく、近い将来訪れるかもしれない「子育て」に対する危機感を募らせていた。

「ゴミ捨てにしても洗濯にしても、私がお願いしないと何もしない。切り出さないと、子育て云々の話にもなりそうになかったけど、この状況で子どもを授かったら、いよいよ家のこと全てがのし掛かってくるんじゃないか…」

そんな思いを抱えながら直紀さんを連れ出した先が「夫婦会議体験プログラム 両親学級世帯経営セミナー」(現在は「パパ&ママのための夫婦会議の体験講座」に名称変更)

「私から言っても喧嘩にしかならないから。場の力を借りようかなと思って」という京子さんの狙いは見事的中!

 

 講座の終わりの感想共有で、直紀さんからは「このまま夫婦生活を続けて子どもが産まれていたら、離婚していたかも」という衝撃発言と共に、「来てよかった。講座の中身が自分に起こり得る事だと思ったし。妻から無理やり必須参加でスケジュールに入れてもらった理由がよく分かりました」という、実感のこもった言葉が続く結果となった。

「あるがまま」に生きてほしい

そんなふたりの元に妊娠の知らせが届いたのは、講座から半年が経った頃。

「正直そこまで積極的に子どもが欲しいわけではなかった。でも、友人の子どもらと接するうちに子どものいる生活も悪くないかも、と思うようになってきて。実際子どものエコー写真を見て、『すげえ』『かわいい』みたいな気持ちが湧いてきた」と直紀さん。

「子宮外妊娠の可能性があると告げられて、ぬか喜びにならないように一旦落ち着こう!と思いつつ。直紀が楽しみにしてくれてるのが、ほんとに嬉しかった」と京子さん。

 

いよいよふたりは、「世帯経営ノート」を開いて産後・育児期を見据えた『夫婦会議』を実践。

「吐き出せる場所があるというのが良い」そうで。お互いに“本音を書いては受け止める”を繰り返す中、家事に留まらず子育てや仕事などさまざまなことを話し合うようになっていった。

 

そうして訪れた出産当日。

助産師:「旦那さん、奥さん産まれます~!」
直 紀:「僕も、出そうなんです~~~!」

 出産に立ち会う気満々でいた直紀さん。

しかし、分娩室にその姿はない。

「僕、その時ファスティングをしていて、最終フェーズである排出食を食べたばかりだったんです。4日も早く生まれてくるとは予想できず。で、ちょうどお腹が反応したときで…」

なんと、いよいよ産まれる!というタイミングでトイレに駆け込んだ直紀さん。

助産師さんから「旦那さん待ちで~す!」の一声が飛ぶと「出産を待たせるとはなにごと!!」と現場は大爆笑。

 2017年11月5日、いいこの日。
笑いの絶えない分娩室で、京子さんは第一子となる長男の「有琉(ある)」くんを出産。

「彼自身の中にいろんな可能性が有る。足りない部分を埋める人生ではなく、彼自身のなかに有る可能性を大切に『あるがまま』に生きてほしい。一瞬一瞬、そこに有る世界と踊るように。そのままで、全部すでに持っているよ」

そんなたくさんの願いが詰まった名前が授けられた。

「わたしだけ」というプレッシャー

言葉にできない愛しさの中はじまった大谷家の子育て。

直紀さんは、妊娠前に参加した夫婦会議の講座で知った『産褥期』を意識して早速仕事を調整。産後5日間の入院期間中、毎日病室に顔を出し、「京子は2ヶ月は動けない。俺が頑張らないと!」と退院後も率先して家事育児に取り組むようになった。

 

「最初の1ヶ月弱は両家のお母さんたちも交互に来てくれて。直紀も出張をセーブしたり、私のためにご飯づくりや洗い物をしてくれたり」と京子さん。

しかし、産後2ヶ月が経つ頃には直紀さんの仕事が再び激化!
直紀さんが出張で家を空けることが増え、「ワンオペ育児」にならざるを得なくなる中、京子さんは言い知れぬプレッシャーに苛まれるようになった。

「授乳が上手くいかなくて。もともと大きく生まれたのに体重が増えない。おっぱいをあげられるのは私だけ。今考えれば他に手段もあったし、直紀も『ミルクでもいいやん』と言ってくれてたんだけど…。自分だけがこの子の命を背負っているような気がして。常に責任を感じてた。産後うつとまではいかなくても、先が見えないことで、あんなにも不安定になるんだな、と」

 

いつになったら 上手く飲める?
いつになったら 長く寝てくれる?
いつになったら 胸の痛みはなくなる?

 

気が付けば1日言葉を発していない日もあった。
有琉くんにも、話しかける気力を失っていた。

 

「無の気持ち」とつぶやいた京子さん。

産後半年が経ち、育休を終えて仕事復帰を果たしてからも、休日にワンオペの日が続くと有琉くんのことを可愛いと思っているのに一緒に遊んであげられない…そんな日もあったという。

 

「一緒」なら乗り越えられる

「産後間もない時のこと。有琉も泣いてるし、京子も泣いてることがあった。俺は『ふたりとも頑張ってる』としか言えなかった」

「直紀が優しさから言葉をかけようとしてくれていたのも分かっていた。でも、『黙って!』『触らないで!』と言ってしまうことがあった」

お互いの気持ちがうまく噛み合わず、不要に傷つけあうこともあったふたり。

それでも、授乳に苦戦し心身共にズタボロになっていく京子さんを目の前に、直紀さんは最善を尽くそうと心掛けた。とはいえ、自分には与えられるおっぱいがない。できることといえば「夜泣きに付き合うこと」くらい。そう考えて、有琉くんが泣く度に一緒に起き上がっていたという。


「直紀、凄いでしょ?本当に毎回起きてた」と、誇らしげな様子の京子さん。
 

“ただそこに一緒にいる”

産後はそれだけで救われることもあるのだ。

 

「有琉」自体が、生きるエネルギー

有琉くんが生まれて1年ちょっと。
ふたりは最近、世帯経営ノートの夫婦のビジョンのページに「攻める夫婦でいよう」と書き込んだ。

「自分1人だけの人生が、有琉を含めて3人分の人生になった。有琉の保育園のお迎えは俺の仕事と思って担当してるけど、それが働き方のペースメーカーにもなっていて。家事・育児の時間がすごく大切なものにも思えているし。良い変化なんじゃないかな」と直紀さん。

「有琉が生まれて時間を有効活用するようになったし人間関係も変わった。直紀の実家の大阪と私の実家の岡山と、ちょくちょく帰って孫の顔みせたいなと思ったり。有琉からいろんなキッカケを貰ってるなと思う。それとは別に、親が子どもに与える影響も大きいから。将来、有琉が性別役割分業意識に左右されないように、私たちがその背中を見せたい」と京子さん。

 

有琉自体が、生きるエネルギー。
有琉がいるからアレができない、コレができないということはない。
有琉ファーストでありつつ、攻める夫婦でいよう。

お互いの目をしっかり見ながら言葉を交わし合う大谷夫妻。

 

 「そうそう!私ね、思ってたより産後の夫への愛情が薄れてないんです」と取材の最後に京子さんが切り出した。

 

「相変わらず主体性無いな…!(怒)って思う時もあるけど、この人なりに頑張って私の意見を理解しようとしてくれてるのが分かるから。直紀が出張する時なんて『ああ、また2〜3日いないのか』と目の前が真っ暗になるしね。それだけ存在を頼りにしている証拠。直紀と一緒になれて良かったなと思ってる」

 

「俺も、相変わらずかっこいいな!と誇りに思ってる。リモートで経営をしながら家事も子育てもやってる。自分がしてみるとその凄さがより分かる。こうやって自分の感情に素直なところも素敵なところ。言葉の選び方考えて!と思う時もあるけど(笑)」

 

お互いへの愛の告白&感謝合戦に発展していることに気がついていないご様子…。
でも、子育てご夫婦の惚気話ほど聴いていて気持ちの良いものはない。

 

気になることは多々あるけれど、不足しているものに捉われすぎず「有る」ものに目を向けていくことができる大谷夫妻。有琉くんの名前そのもの!と思えるご夫婦への取材だった。

 

おまけ

取材から約1か月後の大谷家。

直紀さんは、京子さんの1泊2日の出張に合わせて、初の「完全なワンオペ」を経験したそう。

「有琉とふたりきりになって、京子に甘えていた部分にも気がついた(笑)これを毎日してくれている保育園の先生や世の中のお母さんたちにも感謝の気持ちが沸く」

そう言いながら開いた世帯経営ノートの「子育てのやりがいや喜び」を記入する箇所には、さり気無く「京子の役に立った時」と書かれていた。

いつまでもお幸せでいてくださいね!

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